まだ希望はある
すごくアブストラクトなそれは僕の言う個人の中に生きているかどうかすらも不確かで、もしかしたら「無い」ものなのかもしれないとすら。
ここに無い全部が生まれる時、一体何が起きたんだろう。
何かを乞うこと。
触れてほしい、見つめてほしい、声をかけてほしい、名前を呼んでほしい。
ただ、生きていてほしい。
それと、祈り。
自分のために、自分のことではない何かや自分じゃない誰かの光を求める事。
圧倒的に綺麗な心。
人は生まれながらにして汚れていく。名前という汚れ、拭えない最初の汚点。
でも僕たちの愛しさは、きっと、生まれながらの悪と汚れをひた隠しに生きて、それを霞ませるほどの作り話みたいな美徳を求める事だと思う。
君が好き、そういう言葉がまっすぐ、時にはぐねぐね曲げられてでも、愛を思い描ける人間が僕は好き。それだけが、人が死ななくて良い理由。
私戦4
一つの終わりを目の前にして、ほんの少し、ほんの少しだけど追いすがってしまった。
その一つの終わりは、僕にとって本当に意味があって、或いは、僕以外の何者かについてもはるかに意味のある、何か。
終わりは、来る。
全てに。
僕は時折、全ての終わりが来なければ、と思う。
何者にも終わりがなければ、儚いと言う言葉が地上から消え失せる。それをただ一人待っている。
終わらなければ、終わりさえなければ、全ての幸福が久遠の彩りの中で絶命せずに済んだのに。
そんなことをふと考えている。
君と出会えて、君たちと出会えて、全てが永遠に続いてほしい。
全ての幸福が全ての幸福のうちに生き絶えたい。離したくない離さないでくれ、世界。
心通わせた全てが僕よりも先に絶命しませんように。
祈り。
そればかり考えている。僕を生かした全てが、僕を生かすであろう全てが、消え失せず、より良い形で生き永らえますように。
僕の全ての祈りであり、全ての願い。
死して尚続きうる命題に違えない。
過去を打ち遣る
理解と共感は四次元空間のへそとつま先。
教室の窓、やがてくる夕立。
遠景から来る剥がれない耳鳴り。
ごまかしごまかしやってきた君が、僕に目で言った。これがもう限界。
それでもうおわり。
あのベンチからは多くが見渡せた。
電器屋の有害電飾が綺麗だった。
君の家はあの山の方か、僕の自転車じゃあ随分と時間がかかりそうだ。
初めて、悪いことをした気分になった。
揺れ続けるブランコ、急に近くなった襟足。
紺と紺の衣摺れ。
そして弾けた脳と性。
腐り落ちた感情が戻ってきた気がした。
ああまだ僕には、血が通っているな。
繋がり出した点と線と交わらない歪な眼。
多分あの時から既に僕はもう終わってたんだろうな。
共感と読み替えて傷つけてごめんなさい。
僕は本当は理解したかったのです。
中身のないあなたのこと、しょうもない二人のこと
私戦3
頭の悪い奴が考えて設計をしたんだろうな、小汚い家々がひしめきあってる街を歩いた。
雑で雑で、猥雑で、乱雑で、かける言葉もその必要もない吐き捨ての街。
ゴミ置場みたいな路地からうまそうな匂いがした。醤油を焦がしつけてるみたいな匂いだった。
ほんの少しだけ人を信じようと思った。
バカとかクズとかで括ると精神がずいぶん楽になった。大きな言葉で括り付けると一挙に人々を磔にして火あぶりにできる。何という愉悦か。奴らは愚か者です、奴らを咎め裁く私が聖なるもの、許されるべきものだ。そうやって己を高貴な存在にできる。
大きな言葉、と言う悪魔。その甘美さに取り憑かれる人はおおよそ別の誰かによって火刑に処されるもので、昨晩、斜向かいのマンション四階から人の肉の焼ける臭いがした。その部屋は午前四時をすぎても灯りがついたままだった。
大きな言葉を大きな声で放つ人間が蔓延る社会です。
そう言ってしまいそうになる。
そんな社会、本当に存在するのか。その言葉自体がもはや巨大に肥え太ってしまっていた。
口を噤んだ。私に語るべき言葉がないこと。
出会った生き物と聞こえた言葉、と私しか存在しなかった。その三つしか私には知覚できなかった。グログロと蠢く「不可視」の怪物をでっち上げていたのは私の方だった。
居てはならないものに、許されざるものに、名前をつけて許していたのは私だった。
社会なんてなかった、若輩、拙ごときが謁見し意見するなど不敬この上ない。
本当に私は社会に合間見えようと努めたか?
醤油臭い路地の荒屋は、大衆酒場という赤のれんを下げていた。
私はここで生きる生き物に見えたくなって店に入った。
煙草の臭いが立ち込めている。日も落ちきっていないのに、狸のような男どもが赤ら顔で心地好さそうに杯を交わしている。
知らない事を知ってしまった時、人は腑抜けになる。哲学者なんかにはならない、決して。
よれた割烹着が無愛想に席を寄越して、私は軽はずみに麦焼酎とどて煮を注文して、その後のことはあまり思い出せない。
2018/08/04
また誘うから
時々、自殺しちゃった人のことを考える。
汗ばむ夏が終わると、そういう死の匂いが充満してくる。その気配を感じてる。
ぼくたちにわかり得ないくらい痛くて苦しかったから、掴んでた手すりを離したんだろうなって思う。越えちゃいけない線を越えたんだろうなって思う。
生まれてきた時から持ってるものを手放すのが辛くないわけないよな。それよりも辛いことがあったんだよな。
わかるわけのないことを考えてわかった気になる。
毎年、夏休みがあけると死にたくなっちゃう人がたくさんいるんだってね。
わかりたいんだけど、あまりにも遠い。
君の暮らしはどうですか。
夏の日照りは体の外側を焼いてくれるけど、奥の奥には火を焚べてくれませんね。
ぼくの心象はまるで伽藍堂ですが、君の具合はどうですか。
生きやすいですか、生き難いですか。
布団にくるまって頭を抱えるくらい辛いことがあったんですか。
突然ダムが決壊したみたいに涙が出ることがあったんですか。
青黒い想いが君の胸を締め付けてるなら、どうにかこうにか解いてやりたいけど、そんなこと厚かましいよな。
誰かの優しさが時折猛毒になって、体を這い回って、四肢を痺れさせることもある。
言葉って難しいな。
心はもっと難しい。
次の休みには美味しいもの食べに行こう。食欲ないなら映画でも観に行こう。興味がないなら家でゆっくり本でも読もう。
テレビでもいいしゲームでもいいし、やりたいことをやろう。音楽を聴くのも良い。
そうやって楽しいことをやろう、日が暮れても遊ぼうよ。できればぼくも誘ってほしいと思ってるんだけど。
瞼が重くなってきたなら涼しい部屋で眠ってしまおう。ぼくも家に帰るってそうするよ。
泣きたくなったら、泣いたらいい。
みんな誘って泣いたらいいんだ。
泣いてるやつにかけるられる毛布なんか、誰も持ってないんだから。みんなで泣こう。
ぼくら結局わかりあえなかったって言って声を上げて泣こう。
ぼくたちの涙が空に上がって雲になる。雨が降れば地表を濡らして、焦がれる夏も少しは冷めるよ。
ぼくたちは助け合えるわけないけど、でも手を伸ばことは絶対にやめたくないって思う。
死なないでほしい。誰も死なないでくれ。
せめて次のスマブラが出るまでは。今度は全キャラ出るらしいよ。
せめてスターウォーズが完結するまでは。実はあんまり好きじゃないけど。
せめてこの時代が終わるまでは。新しい世界でも一緒に遊ぼうよ。
また誘うから。
生きてていいよ、たぶん
今日は朝早くから蝉がうるさくて目がさめた。もしかしたらタイマーの切れた冷房のせいかもしれないけれど、不快な目覚めだった。
とんでもない日照りと暑さで、舞台照明に初めて当てられた日を思い出した。
その時の季節は秋、ほんの少しだけ生きた実感がしたけど、人前に立つのがやっぱり苦手で、死ぬかと思った。焦って滑舌悪くなったし、足はいつもの倍重かった。
本気で取り組んだことなんて、後にも先にも高校時代のそれくらいなのかもな、と思う。演劇部の同期や先輩や後輩と、本気で勝ちたかった。ほんとに、本気。
でも思い返すとやっぱり穴だらけで、あぁぼくの人生だなってほんの少しだけ安心するけど、やっぱりそういう性格って直すべきだよな。
降りた幕はもう上がらないんだ。
再演したって、あの時の生の寒気は帰ってこないもんな。
これでいいんだ、よくないけど。
染み付いたものがなかなか拭えなくてこんなところまで来てしまいました。
人を傷つけるのが得意になってしまいました。でも同じくらい人を好きになろうって頑張ってるつもりなんです。
嫌われたくないから嫌いにならないでいたいのに人を簡単に嫌いになってしまいます。
そんな感覚の過敏さを得たくて文学とか芸術とかにのめり込んだ訳じゃないのに。
そもそものめり込めてすらいなかったのかもしれないけれど。
たぶん、岡村靖幸みたいな男がぼくの前に現れて、あんなかっこいい歌歌ったら、多分ぶん殴っちゃうと思う。
みんなが楽しく笑ってる中、独りだって思ってしまう。ここにいなければいいのにとか思ってしまう。
そんな生き方しかできないけど、いいんだ、多分。
いいのかな?
汗を拭いながらそんなことを考えてた。近所のスーパーの駐輪場で。
ぼくは多分、肯定されたくて仕方ないんだろうなって思う。昔からずっとそうだな。
手放しに人を受け入れる、なんて絶対あり得ちゃダメなんだけど、ぼくはそれを甘受したくて仕方ないんだ。
だから、いや、だからじゃないけれど、ぼくはだれかを手放しに許したい。
許したいんだよな、自分の不在を願うような人を。
好きも嫌いもあっていいけど、得手も不得手もあっていいけど、みんな許し合えたらなって思う。
叶わない願いなのはわかってるから、せめて、ぼくはそんな空間を作りたい。
もう誰も自分を殺さなくていい、って大きい声で言いたい。言わなきゃならない。ぼくが今したいと思うこと。
口が滑って、罵倒してもいい。手が滑って、はっ倒してもいい。
でも自分で自分を殺すのは、絶対嫌だから、っていう、そういうことを言いたい。
争ってもいいから、もう誰も、自分をへし折らないでほしい。
そんなことが言いたい。
そんなことを伝えたいと思う。
そんなことを形にしていきたくなった。
私戦2
100年待てるか。
待つ人を見ている。じっ、と見ている。
避暑、河岸から、なにを待つこともなく、ただ対岸を見ている。待った人間の影法師が、美しく揺らいでいる。
百合になって帰るなんて、不誠実だと思う。
あまりにも美しいものを見ると息苦しくなる。
窒息したいのだと思う。
死すべき運命の慕情、紫陽花に滴る玉のような雫、美しい美しい美しい美しい美しい美しい何か。
その耽美からなる自慰がやめられない。
「100年、待ってくれるか。」
「次の秋までなら、待ち続けるよ。」
そんな人形劇、そんなDas Gemeineを頭で遊んでいる。
僕は僕をとうとう許せない。
好きなあいつの家に、わざわざ充電器を忘れていくいじらしさ。
血が交わるほど近づきたいのに、肌が触れ合うと止まらない寒気。
誰かのプレイリストの中に自分の偏愛を見つけた時の笑み。
蝉。
誰かの全てになりたい気持ち。
誰の何にもなれない現実。
盛夏、非現実の蜃気楼に、苛立ちと熱。
2018 07 22